珠洲だより

                                       2013年

vol.1       大野さんの美しい茶炭  2013.3.6

 新年のご挨拶もしないまま、3月を迎えてしまいました。

 柄にもなく (?!) facebook なるものに登録し、
こんなに瞬時にやり取りのできる中です。

 もっと気楽にと思いながら、ここまでたどり着いて
読んで下さっている方々に、お手紙を書きたくなった
事柄を見つけた時にと、あたためていました。

出会いました!

自然のもつ美しさと力を、こんなに魅力的に引きだしている方に。 
 珠洲のクヌギやコナラを使って炭をつくる大野長一郎さん。

 以前よりお会いしたかったお一人です。

 炭焼きの窯の前で炭ができるまでの基礎知識を
分かりやすく話して下さる大野さん。

 化学が苦手だった私は眉間にしわがよりながらも、
焼き物の窯たきとの違い、判断のタイミングによる
できの違いなど、自然を相手に仕事をする人の
魅力の深さにのめり込んでいきました。

 乾燥焼に4〜5日間、5日目あたりから本焚きに約12時間。
本焚き後半の約5時間は薪を入れることをやめ、煙の色と温度を
見ながら、窯の中の空気のひきを変えながら酸素量を調節する。


 その調節の感覚で炭の質そして量が決まること、
それが反比例するものであるがゆえに、
駆け引きをようするということ。
 その絶妙のバランスの中で感覚を研ぎ澄まし、
欲を多く出しすぎずの判断をしなければならない。

 「手のひき際、つまり“引きのコツ”がいるんです。」と
語られた大野さん。

 なるほど、人もモノも同じでバランスがそこにはあり、
多くをし過ぎたくなる気持ちを抑えて、
“いい加減をみる力”が問われるということだ。

 10年前にお父様が亡くなり跡を継がれた大野さん。

 その年に植樹のための土地を買い
1000本のクヌギを植えたそうです。

 生活のスタイルが変化し、海外からのものも入り、
日本での炭づくりの現状はかなり深刻です。
 
 そんな中、大野さんは、生産者が作れなくなっている現状の構造、
良質のもので伝えられる「こと」に真剣に向き合いぶつかっていっている。

 昨年、時を待っていた250本の木が炭となるために伐採され
作られたのが、この茶炭です。 
 珠洲は「たからのくに」なんですよと彼。

 漢字で、「珠・・たから、洲・・くに」 の意味がある。

 この“たからのくに”珠洲の地で自ら植林、育林し、育てたクヌギで
茶炭を作り、この地で生きることをしっかり成功させたいと願っている。

 この出来上がりの炭を見れば、語らずとも伝わってくる。

 8年かかって育てた株からは今年の春新芽が出て、
秋には大野さんの身長ほどに成長するそうです。
これだけの株に育つと、ここから出た新芽の中から、
まっすぐ美しく炭となってくれそうな芽だけを残し、
ひとつの命からいくつかの命に増やすことができるそうです。。



 この地で暮らし、この仕事をしていると、
決して一足飛びにいかないことがあることを知ります。


 こんなに美しくいいものをつくる方のこと、
そしてそのものを多くの方に瞬時に伝えても、
追いつけない『こと』があります。



 だから、悩みます。どうしたら、自然の中で共存し、
人の手のスピードでつくられた良きものを、
本当にそのものを欲しがている方の元へ届けるかということを。



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