珠洲だより

    2009年

 
vol.5 「花あわせ展を終えて」
 鶯が鳴き、つつじが眩しく咲く日、私たちにとって大切な方が息をひきとられた。
 この家に移り住もうと決心できたのも、大家さんとなるこの方との出遇いがあったからだった。
 
 3月の東京の個展で「あなたに見せたくて」と、まだ帯の付いた本を差し出してくれた。
 白州正子さんの「美の種まく人」だった。使われている壷の話、川瀬敏郎さんに憧れ5月に企画している展覧会の話にしばし花が咲いた。お花を80歳を越えても続けていらっしゃったお母さんとの楽しいひと時だった。

 「花あわせ」展の二日目、ご家族の方が揃われるのを待つようにしてふるさとの地で息をひきとられた。
 こんなことがなければ見ていただくことが叶わなかったであろうご親戚の方々が、展覧会に足を運んでくださった。
 お母さんが大好きだったお花でいろんな方に会わせていただき、二度と同じ日がないという事を実感した。

 真っ先に見ていただきたかった方が私たちの胸の中にしかいない。
 83歳になっても私たちを迎えるために夜中まで玄関の大きな壷にお花を生けてくださったお母さんの思いを忘れない。
 いつも支えてくれているお母さんのこと、この展覧会で感じることができた「今」という出遇いを忘れずに、微力ながら美の種をこれからも蒔いていきたいと思います。

                           
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                               花器:Metals   タペストリー:遠見和之 

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