珠洲だより

                               2011年

 
vol.1  「仁平幸春さんを訪ねて」     2011.122

  都営荒川線「チンチン電車」と呼ばれる路面電車が、東京に今でも走っていることに驚く。

  染色家の仁平さんに初めてお会いするドキドキ感。きゅっとしきつまった街中を走り、まるで模型の電車に乗っているようなわくわく感で、はじめてのおつかいにいく子供の気分でした。  
  駅を降り、目の前に並ぶ立つビルの一つ、マンションの一室を工房として使われている仁平さんを訪ねました。

  二間をオープンにして長く使い、パイプなどをうまく利用し機能性を考えたつくりになっている。

  作り手の作業場である工房を見せていただくことは、とても興味があり楽しみでもありますが、作り手にとってものと向き合う場である緊張感や、それぞれの秘めた場である場所に上がらせてもらっている申し訳なさを感じました。
 
  落合・馬場は東京友禅の産地エリアであることを知り、こうして東京という場所で自分の知らない作り手の世界がたくさんあるだろうことを感じる。

  今年の秋の企画展「正倉院の夢」に出展して下さることもあり、作品を数点見せて下さいました。

  仁平さんは、「ろうけつ染め」 (布地全体にろうを置いたり、図柄を描いたりし後、染色しそのろうをはがす染色法 )と 「糸友禅」(糸のように細い防染糊置 )を基本に制作されている。  
  
糊置き   仁平さんとのお話は、ものをつくるということの根幹、美しきものの本質、日本的感性から哲学的なお話まで広がり、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

  日本人の感性、つまり「常に緊張感のある調和」が大切であると語る仁平さん。 生地や染めの特性、時代の要請といったあらゆる「素材」と自分との関係性。そして身の回りを取り巻くあらゆる環境の変化をしっかり受け止め、それらの関係性から新たに産みださすことができる日本人の感性を大切にしている。

  作り手である自分を客観的に見て、大切なものをしっかりと言葉にし、かたちとして残せる方であると思いました。 古今東西から集められた正倉院の宝物が、かつて日本人の感性で技法や文化の香りを感じ、独自の「美」を作り上げたように、「現代」を生きるつくり手が、あらゆる環境や素材の関係性から新たにそれぞれのつくり手が表現する「現代の美しさ」を見せて下さることを、秋の企画展で楽しみにしたいと思います。

地色を染めると糊を置いてあった線が白く抜ける。 レースの美しい模様が浮かび上がり上品で粋な図柄でした。  

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