彼の作品に遇ったのは17年前。
漆の素材を飛び越えて、生き物いや生命力があったものであったことを覚えている。
先月彼の工房に行き、削り出している木の姿と、今回の展示に向けての話をいろいろ聞かせてもらった。
生き物から自然へと表現が広がり、眼に見えないものの存在、言葉では伝えきれない感覚を見せようとしていることを感じた。
大いなる山を見ながら南砺で制作している彼が、陽が落ちる珠洲の海を見て、思わず手をあわせたくなるもの(自然)が変化した。
作家を通して見る景色。
漆黒で切り取られたシルエットだからこそ、何か忘れてはいけない記憶を、その空間に引き込んでくれるように思う。
それはきっと置かれる場所や思いで変化する。
南砺と珠洲から受けた彼のシルエットを、この空間で受け止めたいと思います。


舟あそび 舟見有加

 

2018.10.5(金)~10.14(日)
*会期中無休 入場無料
AM10:00~PM5:00
場所:Gallery 舟あそび
石川県珠洲市若山町出田41-2
問合せ:0768-82-3960

 

珠洲を初めて訪れたのは22年前、大学1年の夏だった。
鉢ヶ崎海岸を一望した瞬間、あまりの美しさに言葉を失った。
澄み渡る海に入るとあまりの心地よさに、
海なし県に生まれ、海に不慣れな私の気持ちを、
まるで優しく受けとめてくれているようだった。
それ以来、年に一度は訪れたいと思う特別な場所となった。
昨年、舟あそびでの展示や芸術祭があり、珠洲へ何度も足を運んだ。
改めて珠洲を感じると同時に、自分が暮らしている土地・南砺に、
どことなく似ていると感じた。
南砺には海はなく、延々と続く山並みに囲まれ、美しい田園風景が広がる。
珠洲とはまた違った自然の景観、気候風土なのだが。
自分の存在をちっぽけに感じさせる雄大な自然や、
その自然と寄り添いながら生きる人々の姿、そして彼らの自然に対する
信仰や畏敬、感謝や謙虚さ…そういった土地に溶け込んだ自然への想いが、
似ていると感じさせるのかもしれない。
珠洲と南砺、この大いなる二つの自然を題材とし、
私が感じた自然への想いや美しさを、漆に込めてみたいと思う。

 

村田 佳彦

略歴
1977 群馬県桐生市生まれ
2001 金沢美術工芸大学美術工芸学部工芸科卒業
2002 長野県上松技術専門校木工科修了
2005 金沢卯辰山工芸工房修了
現在 富山県南砺市にて制作